桜の花びらが夜に

宝塚歌劇団、小説、アイドルのことなどを書きます。

客席の片隅で、舞台に恋した(宙組Hotel Svizra House配信感想)

 "Lives in the theater”を聴いて泣きました。配信はいつでしょうか。

GW最後の夜、一人でこの作品を噛み締められたことを幸運に思います。本当は、大阪公演のチケットを手にしていたのだけれど、遠征を控えて手放そうと思っていたところ全日程中止が決まってしまって。無観客ライブ配信という形で届けてくださって、本当によかった。よかったと言いつつ、この作品はやはり劇場で観たかったですね…。

舞台は第二次世界大戦期、スイス。ロベルト(真風涼帆さん)はスパイキャッチャーとして英国の敵国のスパイを摘発する任務にあたっていた。彼は「ウィリアム・テル」というスパイを探すためHotel Svizra House(ホテル スヴィッツラ ハウス)を訪れ、ニジンスキー救済のチャリティー・バレエ公演への出演を願うニーナ(潤花さん)、公演のスポンサーのヘルマン(芹香斗亜さん)とアルマ(遥羽ららさん)に出会う。

 何万回と言い尽くされていることだと思うのですが、宙組男役のスーツは至高。

まず真風さんがグレーとネイビー、芹香さんがキャメルのスーツなのもう似合いすぎ大好きありがとうございます。お二人がビリヤードしながら踊る場面(ビリヤードタンゴと言うんです?)でのベスト姿もカッコよくて、別の場面ではコート着ている姿も見られて眼福…。お酒を飲んだりタバコをふかしたり、ネクタイを緩める仕草(!)にハット姿も見せてくれて、男役のカッコいいところ全部詰め込みましたみたいなとこある。

次にバレエ団の振付家兼ダンサーのユーリーを演じる桜木みなとさんの紫スーツに同系色のネクタイも!好き!真風さんと芹香さんはジャケットのボタンを外していてベストがしっかり見えているんですが、桜木さんはジャケットをきっちり閉めていて、その差も楽しい。最後の場面で潤花さんと登場する時に身に着けている、シンプルなスーツに蝶ネクタイと白いマフラーもエレガントで大好き。

それと瑠風輝さん!こげ茶のスーツがお似合いです。真風さんに協力する政治ジャーナリストを若々しく爽やかに演じてらっしゃいました。真風さんが最初に潤花ちゃんを誘うところで怪訝そうに振り返る表情が好き。あとロープをおもむろに取り出すところはつい笑ってしまった。「仕事も理性もすべて忘れるくらいの恋」してみてほしいスピンオフ求む~。

クライマックスのバレエ公演の場面ではみんな黒いスーツを着ているのもシャープで美しかったです。

最悪の出来事があった後は、必ずいいことが待っている。

 ホテルであらぬ疑いをかけられたニーナを助けたロベルトが、バレエ公演に出演できることになったと話す彼女にかける言葉。二人の会話するシーンがオシャレな映画のワンシーンにも見えて、配信とこの作品の相性の良さを感じた。猫の踊りをやってみせるところのニーナがとてもかわいい!と思うと同時に、そんなニーナが「私の憧れたオペラ座ではなくなってしまった」からと、そこを辞める決意をしたと聞いて、芯のある人なんだな、とグッときた。そこへ、ユーリーとヘルマン、アルマがやって来る。そして突然始まるビリヤードタンゴ…ひたすらにカッコいいんですが前後との関係は全く無いとのことで、何それ面白すぎる。キメポーズのせりかちんの表情が大好きです!

強いわけじゃないわ。ただ、舞台が私の生きる場所だから。 

 「(舞台から逃げ出したくなっても逃げない、というニーナは)強いんだな。」というロベルトに対する、ニーナの答え。「幕が上がった瞬間、息が止まりそうになったわ。こんな世界がこの世にあるなんて。」とバレエ・リュスを初めて見た時の感慨を話す彼女が、自らも舞台に立つようになって言う言葉、すごく響きました。舞台に憧れた少女が、舞台が自分の生きる場所だと思うようになる―それって、まるで宝塚歌劇団のようではないですか。客席で、私もあの舞台に立ちたいと願った少女が、音楽学校の門を叩いて夢をかなえ、その姿を観た別の少女がまた、夢を持つ。「宝塚に入りたい、という気持ちを持つ人はみんな同士で仲間」と卒業生インタビューでお話された方がいらしたことを思い出します。

あとこのシーンで捌ける潤花さんがさりげなく、真風さんのスーツの襟を直していたの…すごい…となった。

あなたが、どの国の、どんな立場の人であっても、今、ここにいて、そばにいてくれる、それが嬉しい。

 「もしも私が、あなたにとって敵国の人間だったら、私を嫌いになる?」と聞くニーナに「僕が君に同じ質問をしたら?」と返すロベルト。質問に質問で返されたけど、ちゃんと答えるニーナ。オペラ座でニーナと共にバレエをしていたシルヴィ(春乃さくらさん)から届いた手紙に彼女が抱いた複雑な気持ちに耳を傾けたロベルトは、自分も後悔していることを吐露して「誰だって、人を憎むより愛して生きていきたい」と言うんです。おっとなーこれは惹かれちゃうよー。自分からも辛さを共有して、複雑な心境をまるっと肯定してくれるのってとても嬉しいよね。そしてニーナの答えを聞いたロベルトが、一度目は彼女の顎を掬うように手を添えて、二度目は体ごと向きを変えて、口付けるシーン…うっ、素敵すぎる、と画面の前で悶えた。

また、シルヴィが手紙で語ったオットー(聖叶亜さん)との恋が幸せそうで、かわいくて。「彼はドイツ人 だけどいい人 私 恋をしてるの」と歌う彼女の纏うピュアであたたかな空気に心が温まった。だからこそ、後に彼女を襲う不運が痛ましくて。印象的なフレーズだったのでつい口ずさんだら、なんだか少し泣けてしまった。

何かを愛し生きられたなら
心震わせ愛せたなら
熱い想い消せはしない
命果てるまで

 バレエを愛するニーナがアメリカに行くか逡巡していた時、「一度きりの人生、愛するもののために生きるべきだ。」と背中を押すロベルトが、ニーナを見送って歌う歌詞です。二人が去った後、ラディック(紫藤りゅうさん)と彼の音楽を愛するアルマと、アルマへの想いを押し込めて彼女を見守るヘルマンの三人のシーンもありました。ヘルマンの歌う"Power of Music"もよかったなぁ。ラディックとアルマが抱き合う、アルマの手を取れないヘルマン、でもラディックとアルマも別れてしまったから最後はそれぞれの場所に立つ三人が切ない。ラディックを必ず助けるよ、でもそれは「君のためじゃない」とヘルマンは言うけど、そんなわけないよな、君のため「だけ」じゃないかもしれないけれど、君のためではあるでしょうヘルマン、ここぞとばかりに恩を売っておきなさいよ…。せりかちん、いつか飛びっきりのハッピーエンド作品に出てください。

この後のユーリーがバーで歌う歌も印象的。「僕たちの仕事はDance」―桜木さんのダンス!歌!好き!エルザ(瀬戸花まりさん)と声を合わせた瞬間すごく高揚したし、桜木さんが笑顔で歌って踊ってくださる場面ががっつりあってとても嬉しい。ユーリーさん割と悩ましげな表情してらっしゃることが多いので…それも素敵ですけど…

全てうまくいくわ。私たちの公演は、お客様に束の間の夢を与える、一筋の光になる。幕は、必ず開く。 

 アルマのこの台詞を、観客のいない劇場でららちゃんが言ったことが苦しい。幕が開いてはじまる束の間の夢を、直接この目で観ることができなかったという事実は重い。それでも、直接見られなかったことよりも、配信という形でも観ることができたことは幸せだと思いたい。5月5日に舞台の幕が上がったこともまた、確かな事実だから。

私は遥羽ららちゃんの声が大好きです。最初に登場した時の彼女の台詞、ロベルトに「あら、オランダの、アムスベルク伯爵家の?」と声をかけるときの声質が優雅で艶やかでぐっと惹きつけられました。美人の声!という感じがします。この時身に着けているドレスを初めとして、アルマのお衣装ぜんぶ好き。チャールズ(希峰かなたさん)と二人で食事することをヘルマンに心配されて、彼の手の甲へのキスに片眉を上げる表情も、彼を押しとどめて歩き去る様も刺さる…イイ女すぎる。ラディックを庇ってロベルトに銃を向けるその手が震えているのも、ぎゅんと心を掴まれました。

お互い無事にこの時代を生き延びることができたら、友として、うまい酒を飲もう。

そして、劇場で夢を語り合える日を信じて。 

 最後に。公演の舞台となった時代とは何もかも違えど、友人と食事をすることも、劇場で興奮をわかち合うことも難しくなったこのご時世。今、この台詞を舞台で息づかせてくださった景子先生、せりかちん、真風さん、宙組の皆さま、ありがとうございました。シンプルに力強く、「いつかまた不安なく生活できる日々を信じよう」とメッセージを受け取りました。

これからも、「客席の片隅で、舞台に恋」をしたいから、いつかまた劇場に足を運べるようになるその日を信じて、宝塚歌劇団と一緒に頑張りたいなと思う。私は、劇場で、全身で舞台を浴びる―"観劇する"という行為を愛している。